ライター 半田孝輔
私ごとで恐縮ですが、2026年9月から約2ヶ月間オンラインで開催される「つながりを編むレッスン 〜半径500メートルからはじめる企画編集ゼミ〜」にて、メンター講師の1人を務めることとなりました。「編集」の思考方法を用いて、企画立案からプロジェクトの実施までの流れを学んでいただく内容となっています。コンテンツ制作における専門職的な編集ではなく、編集を人間特有の営みとして捉え、さまざまな分野に応用する。まちづくりや福祉の仕事など、一見すると関係なさそうな分野でも編集は息づいています。ご興味がある方はぜひご参加ください。
宣伝になってしまいましたが、改めて「編集」とは何なのだろう、どんな行為なのだろうと考えるようになりました。今は生成AIが台頭する時代。なおさら人間のもつ編集力の捉え直しや、AIの編集と人間の編集の差異はどこにあるのか問うてみたくなりました。
編集は広義な意味として「一定の方針に基づき、情報など素材を取捨選択して、形を整えるもの」と認識されています。私自身が今まさにこのコラムを執筆するなかで、編集を行なっているわけです。情報を闇雲に集めて組み合わせているのではなく、ある目的に合わせて、ありあわせの素材でなんとか形にしている、編み直しているとでも表現すればいいでしょうか。そう考えると、皆さんがご家庭でつくる「ごはん」は編集の産物ともいえますね。

「ありあわせの素材でなんとかする」。文化人類学の用語では「ブリコラージュ(Bricolage)」と呼ばれたりしますが、身近にある手持ちの材料や道具を工夫して組み合わせて、「新しい」と定義されるもの、あるいは必要不可欠なものをつくる編集行為は、人間の創造性の源泉といえるかもしれません。
人間の編集はどこか金継ぎ的なイメージがあります。バラバラになった破片、失われた欠片を金を用いてつなぎとめ、足りない部分を埋め、元通りにする。ただし、直したものは元の器そのものではない。古さと新しさが同居する、以前とは異なる意味や価値が付与されています。再現しようとしたものは、常に「違い」を含んでいる。常に一回性をもち、一期一会的なもの。
生成AIも、情報を収集し、整理し、ユーザーの意図に応じて出力を行うという点では、人間の編集と同じように見えます。扱う情報量や規模感、出力の速度といった違いはすぐ目につきますが、それ以上に大きな差異もあるように感じます。
AIが実際に行っているのは「意味の理解」ではなく「過去の膨大な学習データに基づく確率的・統計的な出力」です。AIはテキストで出力を行う際、言葉や要素を組み替えていますが、その言葉の意味や背景にある文化、価値観を理解して選んでいるわけではありません。
対して人間の編集行為には、一見関係のないAとBという要素を出会わせ、そこに「新しい意味や文脈を発見・創造すること」が含まれる。過去のデータ(確率)からは導き出せないような「あえて外す」「飛躍させる」「異質なものを組み合わせる」という行為によって、新しい価値を生み出してます。

さらに、AIには人間のような編集行為が働くための「動機」や切実な「問題意識」、「感情」がありません。人間にとってはこれら肉体の内側で湧き上がる何ものかが、編集をする際の方針や目的、情報の取捨選択のフィルターとして機能しているはずです。
もしや、AIが行なっていることは大規模言語「処理」、統計的「処理」であって「編集」ではないのではないか。そう考えるとなおさら「編集」の意味の再構成が必要だなと感じます。
AIは効率性や再現性を重視しますが、人間はそれらと真逆の無駄やノイズに価値を見出してしまう。そして、人間は「いらないはずのもの」を制作物に入れ込もうとしてしまいがちです。ですが、その出来上がったものを人間の感覚器官を通して見ると、情緒や味わい、深みや奥行きとして感じられてしまう。効率性や生産性が重視されるビジネスの現場でも、時には無駄なことによって人が動くことだってある。
その棲み分けを明確にしておけば、人間の創造性・編集力と、AIの生産性・効率性とをお互い損なわずに生かすことができるのではないか。
編集的な文脈でいえば、AIに良質な素材とプロトタイプを最速でつくらせ、人間は編集長として削る・つなぐ・評価する・責任をもつことに集中する。人間がドライバーのように、ハンドルとアクセルとブレーキのコントロール権を握ることで、「作業を効率化する」だけでなく「知性と想像力を拡張する」という最大の効果を生み出すことができるのではないかと、私自身希望をもってAIと壁打ちをする日々です。

■参考先■
【オンライン記事等】
・EDIT LOCAL LABORATORY
「つながりを編むレッスン 〜半径500メートルからはじめる企画編集ゼミ〜」
・株式会社トライエッティング コラム
「叡智の探究者が共創するテクノロジー。急増する「AI企業の哲学者たち」」
・note
モリジュンヤ「コンテンツがAIに「読まれる」時代、企業はオウンドメディアで何を発信すべきか」
山口周「AI時代になぜ「AIに似た人材」を採用し続けるのか?」
深津貴之「AIコマース時代の比較可能プレイと解釈依存プレイ」
竹村俊助「AIの仕組みを知ったら、AIが怖くなくなった話」
その他、GeminiやClaudeとのセッションを通じて分析・収集

