戦争とAI。気になるテック企業の動向、ユーザー個人はどう判断するのか

戦争とAI。気になるテック企業の動向、ユーザー個人はどう判断するのか

2026.3.10

ライター 半田孝輔

遂行時間 11分23秒

2026年2月28日、アメリカとイスラエルがイランに対して攻撃を始めました。一連の戦闘のなかでイランの最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡。イラン情勢は混迷を極めています。最初期の攻撃から10日あまりが過ぎ、報復など続く戦闘で多数の死者が出ています。「軍事行動」「戦闘拡大」と表現していたメディア各社も媒体によっては徐々に「戦争」という表現が見られるようになりました。

遠い国の出来事とはいえ、日本経済へ影響が出ることは皆さんもご想像かと思います。エネルギー価格や物流コストの上昇、価格転嫁による商品・サービスの値上げなど、昨今の円安物価高がさらに進行していく。日本のほんの片隅の暮らしと世界情勢が繋がっていることを思い知らされます。

さて、この戦闘で活用されたのがまさにAIでした。ハメネイ師を標的とした作戦は、開始から終了に至る遂行時間が11分23秒しかかからなかったそうです。この作戦には民間企業が開発したAIが使われていました。アンソロピック社のAI「Claude」を中枢とし、パランティア・テクノロジーズ社の分析プラットフォーム「Gotham5」と統合システム「AIP」を媒介して作戦が実行されています。軍事におけるAIの利用は、膨大な情報の整理と抽出、意思決定の高速化、少人数での実行可能性、戦死者の減少、抑止・交渉力の強化に寄与するとされており、この内容だけを見ると企業経営など組織運営に通ずる部分があります。ただ、国家存亡をかけた運用という点では規模、緊急性、金銭的コストのスケールは全く異なりますが。

当然のことながら、人道的な観点から国防や戦闘行為へAIが使われることへ批判の声が上がっています。テック企業の動向、社としての態度の示し方も重要な局面となってきました。

アメリカ国防総省とアンソロピック社は元々、2億ドル(約310億円)規模とされる機密システム向けAIの契約交渉を進めていました。しかし、ダリオ・アモデイCEOは大規模な監視行為や完全自律型兵器に自社AIが使われることに懸念を示し対立、イランへの戦闘行為が始まる直前の2月27日に両者の交渉は決裂(しかし、今回の戦闘にはClaudeが使用されている)。それに代わるように、「チャットGPT」を提供するオープンAI社が国防総省と利用契約を結びました。オープンAI社は「AI使用は合法的な範囲内で合意」としていますが、解釈の仕方次第では大規模監視に繋がるとされています。

この契約は、企業としては製品の性能向上や売上の上昇、国との関係構築、業界での権威底上げなどのメリットをもたらします。しかし、個人の権利侵害を犯すこと、戦争に加担することという点で、悪い印象を持たれることも間違いありません。善悪を抜いて冷徹な目で見たとき「企業経営」としての正解はどこにあるのでしょう。

情報の取り扱い

イランへの攻撃以降、SNS上ではClaudeやチャットGPTの解約運動や両企業への批判が上がっており、私のフィードでも頻繁に上がってくるようになりました。そもそも、AIを活用する上で「責任の所在」が明確ではないという問題があります。それが国家間の出来事、とりわけ戦争のような状況で不明確というのは恐ろしいことです。

このボイコットの動きを受けて疑問が浮かびました。システム開発など日頃からAIを駆使した仕事をしている人々、とりわけエンジニア職の人々は今回の件をどう捉えているのか。自身の信念や倫理観に従い、解約などボイコットをするのか。それとも製品として実用的であることを優先し使い続けるのか。とくにClaudeは開発職のあいだで活用されていることもあり、簡単に手放せるものではないと思います。

ただ、スケールの大きさはともかく今回の件で示唆的なのは、個人・顧客情報の取り扱い方にあるのではないでしょうか。企業として顧客の情報をどのような目的で集め、管理し、適切に運用するのか。情報が資産とも言える現代で、“プライバシーポリシー”が形式的なものにならず、企業とユーザー双方の権利と関係を守るものとして機能するよう、企業理念や社是、パーパスを見直すのと同じように、運用方針を振り返ることも重要かと思います。


■参考先■

イラン情勢関連ニュース(時事ドットコムニュース)

Anthropicとアメリカ国防総省の交渉決裂の内幕、最後まで国防総省はAnthropicのAIを用いてアメリカ市民に関する大量データを分析したいと考えていた(Gigazine)

X、AIの使用隠した戦闘動画を規制 「90日間収益停止」(時事ドットコムニュース)

オープンAI、米政府との契約を変更 軍事利用について批判され(BBC NEWS JAPAN)

オープンAI、軍事利用で逆風 米国防総省との合意巡り(時事ドットコムニュース)

「パランティア」は実際、何をしている企業なのか?(WIRED)

Googleが拒否した軍事AIを成功へ 異端企業「Palantir」が示す、次なるAIの戦場(ITmediaビジネスオンライン)

【11分23秒で作戦遂行】イラン攻撃はAIが主導する人類初めての戦争となった(ビジネスIT)

アンソロピック「供給網リスク」正式指定と公表 AI利用で法廷闘争へ(日本経済新聞)

OpenAIが「GPT-5.4」提供、Excelと連携 アンソロピック上回る性能(日本経済新聞)

「生成AIはむしろ仕事を増やす」──米UCバークレーの研究者が発表 AI依存は現場で何を引き起こす?(ITmediaAI+)

その他、Geminiとのセッションを通じて分析・収集